昼のグラウンドは、だいたい裏切りません。
光は十分、芝は明るい、子どもは走り、親は望遠レンズを構えています。
カメラは「任せろ」と言わんばかりに、軽快にシャッターを切ってくれます。
ところが、同じ場所が夜になると、急に態度が変わります。
「それは…その…ちょっと難しいんですけど…」みたいな、急に弱気な顔です。
スポーツ撮影なのに、写真がもやっとして、ザラザラして、たまに縞が走る。
まるで、昼間のカメラと夜のカメラは別人です。
この差を最初、私は「自分が下手だから」と思っていました。
ところが実際は、ただ 光が足りていないだけ でした。
それだけの話なんです。
シンプルすぎて、気づかないやつです。
昼は「光が豊富な世界」
夜は「光が足りない世界」
そもそも 同じ設定で挑んではいけない相手 だったわけです。
写真は、腕前の問題ではないことの方が多いです。
環境のルールを知っているかどうか、ただそれだけのことがある。
そして、昼と夜は、ルールがまるで違います。
この記事は、その違いと、どう扱えばいいかという話です。
難しい技術の記号ではなく、「現場で迷わなくなる考え方」を中心に話します。
この記事でわかること
- 屋外日中の露出は「どこから組み立てるのか」
- ナイターでブレとノイズが増える理由と、崩れない設定順序
- LED照明で写真に縞が出るときの仕組みと対処法
- ISOを上げても破綻しにくい考え方と撮り方
- 最後にRAWとAIノイズ低減で整える流れ


屋外日中撮影の基本理解
昼のグラウンドは、健康的です。
光がたっぷり降りそそぎ、芝は明るく、子どもは元気に走り、親はなぜか全員レンズが長い。
あの場は「撮っていいよ」と言われているようなものです。
しかし、撮れない人は普通に撮れません。
私がそうでした。
シャッター速度、絞り、ISO。
この三人組、仲良さそうな顔をしておいて、全員それぞれ性格が悪いです。
一人だけ機嫌を損ねると、写真がぐちゃっとします。
そこで日中は、こう並べます。
- 動きを止めるのはシャッター
- 背景を整えるのは絞り
- 最終的な帳尻はISO
順番は、親戚の席順と同じで、変えると揉める。
シャッター速度は「動きを止める線」
走る人間は、止めようとしない限り止まりません。
「根性で止める」ではありません。
カメラのシャッターが、動きを止めます。
日中であれば、1/1000〜1/2000秒。
数字だけを見ると、やる気が強すぎる速度に見えますが、実際はこれでちょうどいい。
たとえば、運動会で子どもが走っているのを撮る時、
1/250秒とかで挑むのは、そもそもケンカを買ってないのと同じです。
「止める意志」が大事です。
(精神論ではなく、数値の話です)
絞りと背景の“距離”
ここは、ちょっと面白いポイントです。
背景が近いとき、いくらF2.8でがんばっても、
背景は、**「いや、いるけど」**という顔で主張してきます。
背景が遠いとき、同じF2.8でも、すっと下がります。
つまり、
絞りは、単品で仕事しているのではなく、距離と一緒に働いている
ということです。
背景が近いのに「とりあえず絞りを開けておけばボケるだろう」というのは、
「カレーにチョコを入れたらコクが出る」と言われたが量をまちがえた人と同じです。
うまくいきません。
ISOは“最後の調整役”
ISOは、サッカーで言うと守備的MFです。
前に出過ぎると試合が壊れますが、
必要なときに動いてくれると、チームが一気に安定します。
なので、
- シャッターで動きを止める
- 絞りで背景を整理する
- 足りない分だけ ISO が動く
この順番が崩れなければ、日中はほぼ平和です。
ISOが上がることは、負けではありません。
**「今日はちょっと光が足りんかったな」**というだけです。
負けじゃない。
日照のせいです。
ナイター撮影という“異世界”
日中が「太陽の国」だとすれば、ナイターは「灯りの王国」です。
同じグラウンドでも、光の支配者が変わると、写真はまったく別の顔になります。
夜になると、光は急に控えめになります。
控えめどころか、まるで存在を忘れてきたように弱い。
その結果、昼と同じ設定で挑むと、写真はこうなります。
- 被写体がブレる
- 画像がザラつく
- ときどき縞が走る(フリッカー)
「同じ場所のはずなのに…」
そう感じたら、あなたは正しいです。
そこはもう、違う世界 です。
光量が減ると露出はどこから崩れるか
まず崩れるのは、シャッター速度 です。
昼のように 1/2000秒を維持しようとすると、
カメラは「いや無理ですけど?」という顔をします。
そこで、ナイターの目安はこうなります。
- 1/800〜1/1250秒
(動体がギリ止まるラインを死守する)
つまり、夜は シャッター速度を先に確保する ところから始めます。
ここを譲ると、写真はブレます。
ブレてしまった写真は、あとでどう頑張っても戻りません。
夜は、まずブレの生存権を確保する世界です。
ISOは“惜しまない方が安全”という考え方
夜になると、ISOを上げることに抵抗が出ます。
ザラつきが怖いからです。
しかし、ここで一つ現実があります。
- ISOをケチると、写真が死ぬ
- ISOを上げると、写真が生きる
この差は、残酷ですが、実際はこうです。
ザラつきはあとで減らせます。
でも、ブレた写真は戻りません。
たとえるなら、
ナイターは「命はあとで回復できるけど、HPが0になったら終わり」のRPGです。
ISOは、命の薬です。
ケチると倒れます。
なので、夜はこう並びます。
- シャッター速度を確保する
- 絞りは開けられるだけ開ける(F2.8〜)
- ISOは必要なだけ上げる
昼の「落ち着いた三兄弟」とは違い、
ナイターは 生存優先の戦闘モード です。
照明が点滅している世界と、縞が生まれる理由
ナイター照明は、意外にも 点滅しています。
肉眼では見えていないだけです。
この点滅とシャッター速度が噛み合わないと、
写真に 縞(しま) が生まれます。
写真に縦横どちらかに「薄い帯」が入ったことがあるなら、
あなたはすでにこの“見えない点滅の世界”に触れています。
つまり、ナイターでは
「光が弱い」
だけではなく
「光が落ち着いていない」
という問題が同時に起きています。
ナイターが難しいのは、
敵が一人ではない からです。
フリッカー対策:二つの剣を使い分ける
せっかく決定的瞬間を撮ったはずなのに、よく見ると画面の一部に、うっすら横縞。
「なぜだ……?」と空を見上げても、答えは返ってきません。
けれど、原因は意外と、ものすごく日常的です。
ナイター照明は、点滅しています。
人間の目には止まって見えているだけです。
つまり、カメラは「点滅している光」を「止まっている世界」として撮ろうとしている。
そこで不整合が発生する。
その結果が 縞 です。
言い換えれば、これは「テンポの違う相手とダンスしようとしたとき」に起きる現象です。
こちらがワルツで、相手がサンバ。
合うわけがない。
そこで、カメラには「ダンスのテンポを合わせる機能」が存在します。
それが、以下の二つ。
- アンチフリッカー
- 高周波フリッカー低減(HF)
役割が違います。
ここ、めっちゃ大事です。
アンチフリッカーは、「相手の呼吸に合わせる」
アンチフリッカーは、照明の点滅リズム(100Hz / 120Hz)に合わせて、
「光が明るい瞬間を狙ってシャッターを切る」 機能です。
やっていることはシンプルです。
相手が息を吸っている瞬間に、こちらも息を吸う。
「呼吸を合わせる」タイプです。
これは、体育館や学校グラウンドなどでよく効きます。
ただし、欠点もある。
- 連写が少しゆっくりになる
- シャッターの反応が、わずかに遅れる
つまり、
声をかけながらダンスするので、ちょっとだけテンポが変わる。
そういうことです。
高周波フリッカー低減(HF)は、「手元で細かく微調整する職人」
こちらは、アンチフリッカーより 面倒 です。
ですが、効く場面は確実にあります。
LEDビジョン、特殊照明、体育館の新型ライトなど、
点滅の周期が一定ではない照明に対して、電子シャッター側で
シャッター速度を細かく微調整して縞を抑える 方法です。
ここでは、1/100、1/125 などのきれいな数字ではなく、
- 1/119.9
- 1/238.6
みたいな数字を使います。
これはほとんど 刺繍の針目をそろえる作業 に似ています。
人力で合わせるように見えて、実際はカメラががんばっています。
HFは「合わせに行く」側の機能。
アンチフリッカーは「合わせてもらう」側の機能。
この違いを知っているだけで、夜の勝率が上がります。
まとめると
- 縞が出た → アンチフリッカー ON(まず呼吸を合わせる)
- それでも縞が出る → HF へ切り替える(縫い目を揃えに行く)
ナイターの縞は「不運」ではなく「対処可能な現象」です。
知っているかどうかだけで、写真の出来は変わります。
ノイズ対策:撮影後の“救いの道”
ナイターで撮った写真を家で開いたとき、
画面がザラついていた経験はありませんか。
あのザラつきは、別にあなたが下手だったわけでも、
カメラが安物だったわけでもありません。
ただ、光が足りなかった だけです。
夜はそういう世界です。
「光が足りない」という一点で、あらゆる写真が試練を受けます。
しかし、ここで話は終わりません。
ここからが、現代の写真の面白いところです。
RAWで撮るとは「あとから助けられる余白を残す」こと
JPEGは、撮った瞬間にカメラが勝手に仕上げます。
つまり、もう半分くらい「料理ができちゃっている」状態です。
RAWは、素材です。
炒めても、煮ても、焼いてもいい余白が残っています。
ナイターは、余白がものを言う世界です。
「とりあえずRAW」ではなく、
ナイターはRAWの領分
です。
ISOはケチらない → 後で整える
ここが夜撮影最大の逆襲ポイントです。
- その場でISOをケチると、ブレて写真が死ぬ
- その場でISOを上げると、あとでノイズが救える
つまり、
ナイターは“露光の生存”が最優先
あとでAIノイズ低減に任せればよい。
ここはもう、そういう時代になっています。
AIノイズ低減ツールの向き不向き
ここから先は「どれが正義か」ではなく「どこが得意か」。
| ツール | 雰囲気 | 得意な場面 |
|---|---|---|
| Lightroom の Denoise | 均一で優しい | 人の肌、動きの少ない被写体 |
| DxO DeepPRIME / PureRAW | 細部が生きる | ユニフォームの布、芝、ボールの質感 |
| Topaz Photo AI | ノイズ低減+シャープ一体型 | スポーツ全般、動きのある写真 |
これは「どれが最強」ではなく、
写真の種類によって、助けてくれる人が違う
という話です。
たとえるなら、
- Lightroom → 全体の空気を整える人
- DxO → いいところを丁寧に引き出す人
- Topaz → 力技でなんとかしてくれる人
くらいの感覚で十分です。
大事なのは「その場で露光を合わせて撮っておく」こと
AIノイズは万能ではありません。
暗すぎる写真を持ち上げると、ノイズは暴れます。
だから順序はこう。
- 現場でシャッター速度を守る
- 絞りは開く
- ISOは必要なだけ上げる
- あとでノイズを落とす
この流れなら、夜でも写真は生き残ります。
生きている写真は、救えます。
死んだ写真は、救えません。
夜は、生存戦略です。
さいごに
▼ 日中 vs ナイター:設定優先順位の比較
| 条件 | 光の状況 | 優先する設定 | 露出の組み立て方 | ISOの扱い |
|---|---|---|---|---|
| 屋外日中 | 光が豊富 | シャッター速度 → 絞り → ISO | 順序を守れば安定 | 必要な分だけ最後に上げる |
| ナイター | 光が不足・照明が不安定 | シャッター速度を最初に確保 | 生存優先。まずブレを止める | 惜しまない。あとでノイズ低減前提 |
▼ フリッカー対策:アンチフリッカー / HF 比較
| 機能 | 仕組み | 効果が出やすい環境 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| アンチフリッカー | 100/120Hz の明るい瞬間に同調 | 学校グラウンド・町の体育館照明 | まずはこれで縞が消えやすい | 連写が少しだけ遅くなる |
| 高周波フリッカー低減 (HF) | シャッター速度を微細に調整 | LEDビジョン・新型体育館照明 | アンチフリッカーで消えない縞に強い | 電子シャッター前提が多く、微調整が必要 |
▼ AIノイズ低減ツールの性格と向き不向き
| ツール | 得意な仕上がり傾向 | 向いている写真 | 仕上がりの印象 |
|---|---|---|---|
| Lightroom Denoise | ノイズを均一に整える | 顔・肌・落ち着いたシーン | 自然でやわらかい |
| DxO DeepPRIME / PureRAW | 細部の質感を残しやすい | 芝・布・スパイク・ボール | 立体感と質感が出る |
| Topaz Photo AI | ノイズ低減+シャープを同時処理 | 動きのあるスポーツ全般 | しっかり整えた印象 |
でも実際は、ただ 光の事情が違った だけでした。
昼は、光がたっぷりある世界。
だから余裕が生まれ、順番に設定を組み立てれば、大きな失敗は起きません。
- 動きを止める → シャッター
- 背景を整える → 絞り
- 最後に帳尻を合わせる → ISO
この席順を変えないだけです。
夜は事情が変わります。
光が控えめで、照明も落ち着いていない世界です。
だから夜は、形を残すことがすべての出発点になります。
- まず シャッター速度を確保する
- 絞りは開ける
- ISOは「生存のために」上げる
- 縞が出たら アンチフリッカー
- それでもダメなら HFで縫い目を揃える
そして、家に帰ってから
- RAW を開き
- AIノイズ低減で整える
そうすると、あの「ザラついたはずの写真」が
意外なほど、静かに息を吹き返したりします。
写真は、撮った瞬間で終わりではありません。
夜はなおさらです。
夜に負けた写真を見ると、心が折れそうになります。
でも、その写真はまだ死んでいません。
ただ、「助けを待っているだけ」です。
私たちは、失敗したのではなく、
まだ「夜のルール」を知らなかっただけでした。
知れば、撮れます。
そして撮れた夜の写真は、昼より少しだけ、うれしいです。
子どもの行事を「初めて一眼で撮るとき」の基準が知りたい方へ
運動会や発表会で、
「設定で頭がいっぱいになってしまう」
そんなときに、考える順序を最初から整理した記事です。
→ 「2025年版|子供の行事に初カメラデビュー!失敗しないミラーレス一眼の選び方」
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カメラは良くても、カードが遅いと連写が詰まります。
実は「なんでもいい」で済まないポイントがあります。
→ 「デジカメ用SDカードで『なんでもいい』はおすすめしない理由」
スマホとカメラの「違い」が腑に落ちる記事
“なぜカメラで撮るのか” を、性能ではなく、
写る距離感 の話としてまとめています。
本記事の参照情報URL一覧
▼ フリッカー・照明同調
- Canon 「フリッカーレス撮影」マニュアルページ
https://cam.start.canon/ja/C003/manual/html/UG-03_Shooting-1_0250.html Cam Start Canon - Canon 「フリッカーの影響を低減する」FAQページ
キヤノンFAQ
▼ ノイズ低減・RAW後処理
- DxO PureRAW 製品紹介ページ
https://www.dxo.com/dxo-pureraw/ dxo.com+2dxo.com+2 - DxO 「サポート対象カメラ一覧」ページ
https://www.dxo.com/supported-cameras/ dxo.com
▼ 撮影運用・参考指針
- Digital Photography School
https://digital-photography-school.com/





