陸上競技の撮影では、競技ごとに最適なシャッタースピードを選ぶことが何より大切です。
短距離は一瞬の爆発的な動きを凍結させる必要があり、
長距離では表情やフォームをバランス良く捉えることが求められます。
跳躍では踏切から着地までの一連の動きを、
場面ごとに最適な速度で切り取る技術が勝負を分けます。

競技の特性を知れば知るほど、シャッタースピードの選び方が撮影の決め手になると実感しますよ。



なるほど、だから同じカメラ設定では対応できないのですね。



そうですね、短距離、長距離、跳躍――それぞれに合わせた設定を理解しておけば、ブレない写真が撮れるはずです。
さらに、
屋内やナイターで必須となるフリッカー対策や、
スピード感を表現する流し撮りの基本も紹介します。
この記事でわかること
- 短距離・長距離・跳躍それぞれで使い分けるシャッタースピードの基準
- 屋内・ナイター撮影におけるフリッカー対策のポイント
- 流し撮りを成功させるための実践的練習法
- レンズや立ち位置によって必要なシャッタースピードが変わる理由
短距離競技のシャッタースピード設定と撮影ポイント
短距離競技は陸上撮影の中でも最もスピードが速く、シャッタースピード(以下SS)の選び方が成否を大きく左右します。



短距離は一瞬で勝負が決まります。だからこそSS設定は最初から決めておくことが重要なのですよ。



そんなに一瞬なんですか。
私は普段1/1000秒くらいで
撮っていましたが足りないのでしょうか。



トップスピードを完全に止めたいなら1/1600〜1/2000秒を基準にしてください。四肢の末端や表情の細部まで鮮明に残せます。
凍結撮影の基準
1/1600〜1/2000秒は、スパイクの蹴り上げや腕の振りをしっかり止めるための実戦的な値です。
特にバトンパスやハードルの離地・着地など、動きが複雑な場面では1/2000秒に設定すると微細なブレを抑えやすくなります。



私は以前1/1250秒で撮ったところ、指先が少しブレてしまいました。経験上1/2000秒は安心できますね。



なるほど、指先や表情の動きまで考えると、そこまで上げる必要があるのですね。
流し撮りでスピード感を演出
スピード感を写真に残したい場合は流し撮りが効果的です。
目安は1/125〜1/60秒で、初めは1/125秒から練習を始めると成功率が高くなります。
慣れてきたら1/80秒、1/60秒と段階的に遅くしてみてください。



望遠レンズで流し撮りをするときは、被写体をファインダーで正確に追うことが大切です。



望遠だと少しのズレでも大きくブレそうで難しそうですね。



その通りです。最初は200mm前後から挑戦すると歩留まりが上がります。
屋内・ナイターでの注意点
屋内競技場やナイターでは、照明のフリッカーが写真に縞模様を作ることがあります。
この場合はカメラのフリッカー低減機能(Anti-Flicker)をONにしましょう。
ただし、連写速度が低下したりわずかなシャッターラグが生じることがあるため、決定的瞬間を逃さないよう、余裕を持って連写を開始してください。



私も最初はフリッカー対策を怠って失敗しました。ONにしておけば露出ムラを防げます。



なるほど、屋内やナイターでは必ず確認するポイントですね。
長距離競技のシャッタースピード設定と撮影ポイント
長距離競技では短距離ほどのスピードはなく、選手の表情やレース展開をしっかり捉えることが大切です。



長距離は一歩一歩のリズムや駆け引きが魅力ですね。スピードは控えめですが、表情や姿勢をきれいに残したいところです。



たしかに。短距離のように高速シャッターは必要ないのですね。
凍結撮影の基準
1/800〜1/1250秒が目安となります。
特に1/1000秒を基準にすると、フォームや表情をバランス良く写すことができます。
被写体が遠く角速度が小さい場合は、1/800秒でも十分に止まることがあります。



私も1/1000秒を中心に撮っています。横方向の動きが少ないのでこれで問題ないですよ。



なるほど、距離があるとその分ブレにくくなるのですね。
流し撮りの応用
隊列全体を流し撮りすることで、スピード感とレースの雰囲気を表現できます。
1/100〜1/60秒を目安に練習を始め、慣れてきたらさらに遅いシャッターにも挑戦してみましょう。



流し撮りは背景を動かしてスピード感を強調できます。



観客席やトラックの流れが写真に動きを加えるのですね。
流し撮りは躍動感やスピード感を表現する撮影方法です。ここでは、メインの被写体はブレないようにピントを合わせ、背景や周りの景色は流れるように撮影する流し撮りの方法を紹介します。
引用:SONY HP 流し撮りでスピード感を表現する
Sモードで、被写体が動く速度や、どのくらい流したいかによってシャッタースピードを決めて撮影します。
流し撮りはシャッタースピードを遅くして撮影するのでブレやすく、なかなか思うように撮れないかもしれません。何度も練習してうまく撮れたときの喜びは格別なので、ぜひチャレンジしてみてください。
見せ場を逃さないコツ
給水やラスト1周のスパートなど、選手の表情や駆け引きが現れる場面では、1/1000秒で確実に止めると印象的なカットになります。
屋外では強い日差しによるハイライトの飛びに注意し、露出補正を−0.3〜−0.7EVに設定するか、ハイライト重点測光を使うと安定した露出が得られます。



給水シーンは選手の緊張感が伝わるので、シャッターを少し速めて表情を残したいですね。



はい、ラストスパートは一瞬ですし、早めにシャッターを切る準備が必要ですね。
跳躍競技のシャッタースピード設定と撮影ポイント
跳躍競技では踏切から頂点、そして着地までの一連の動きをどう捉えるかが写真の印象を大きく左右します。



跳躍は砂煙や体の回転が見どころです。瞬間ごとに必要なシャッタースピードが異なるので注意が必要ですよ。



なるほど。短距離や長距離とはまた違った難しさがあるのですね。
踏切・頂点・着地の使い分け
頂点では回転速度が落ちるため1/1600秒でも十分に凍結できます。
砂煙をしっかり止めたい場合は1/2000秒を目安にすると、迫力あるカットを得やすくなります。



私は砂煙を止めたい時は必ず1/2000秒に設定します。動きの一瞬を確実に捉えられますからね。



砂煙が鮮明に写ると迫力が違いますものね。
置きピン活用法
タイミングを合わせて連写することで、成功率と画質を両立できます。



踏切板に置きピンしておくと、選手が入ってくる瞬間を逃しません。



それなら初心者でも決定的瞬間を撮れそうです。
種目別の目安
・走幅跳:踏切板で1/2000秒、空中姿勢は1/1600秒でも可。着地の砂煙を止めたい場合は1/2000秒を推奨。
・三段跳:ホップからジャンプまで動きが連続し、末端がブレやすいため1/2000秒を目安に。
・走高跳:助走は1/1600秒、バーを越える瞬間は1/1000〜1/1600秒が基準。
・棒高跳:離地から越えまで1/1600〜1/2000秒が推奨されます。



種目ごとの動きを理解しておくことで、より的確な設定ができます。



これだけ具体的に分かれていれば、現場で迷わずに済みそうですね。
実践の基本設定と失敗を防ぐコツ
陸上競技を撮影するときは、機材の性能を最大限に活かすために、設定の順番と操作の工夫が欠かせません。



設定の手順を間違えると、せっかくのシャッタースピードも活きませんよ。



具体的にはどんな順番で設定するのが良いのでしょうか。
露出決定の順番
まずレンズを開放付近(F2.8〜F4)に設定します。
次に希望のシャッタースピードを固定し、最後にISOで明るさを調整します。
その後でISOを調整すれば、必要な明るさを保ちながら安全な凍結速度を維持できます。
屋内やナイターではISO上限を現実的に高めに設定しておくことで、光量不足に対応しやすくなりますね。



私はいつもこの順番で設定しています。特に屋内ではISOを妥協しないことが大切ですね。



先にシャッタースピードを決める理由がよく分かりました。
AFと連写の使い方
AF-C(コンティニュアスAF)と高速連写は、短距離や跳躍の決定的瞬間を逃さないために必須です。
特に短距離では一瞬の動きを確実に捉えるため、連写での保険が有効です。



連写は失敗を減らすための強い味方です。



一度きりの瞬間を逃したくありませんからね。
測光とホワイトバランス
屋外の強い順光では、肌のハイライトが飛びやすくなります。
露出補正を−0.3〜−0.7EVに設定するか、
ハイライト重点測光を利用すると安定した露出が得られます。
屋内LEDでは色温度が変動する場合があるため、ホワイトバランスはプリセット化するかRAW撮影を前提にしておくと安心です。



心配な方は、RAWで撮っておけば後で微調整できますよ。



それなら照明の影響が大きい屋内でも安心ですね。
種目別シャッタースピード簡易早見表
種目・場面 | 凍結撮影の目安 | 流し撮りの目安 |
---|---|---|
短距離 | 1/1600〜1/2000秒 | 1/125〜1/60秒 |
長距離 | 1/800〜1/1250秒(基準1/1000秒) | 1/100〜1/60秒 |
走幅跳 | 踏切〜離地1/2000秒、空中姿勢1/1600秒 | 助走のみ1/125〜1/60秒 |
三段跳 | 1/2000秒 | 助走のみ1/125〜1/60秒 |
走高跳 | 助走1/1600秒、クリア瞬間1/1000〜1/1600秒 | 助走のみ1/125〜1/60秒 |
棒高跳 | 離地〜越え1/1600〜1/2000秒 | 助走のみ1/125〜1/60秒 |
屋内・ナイター共通 | 1/1000〜1/1600秒を目安 | — |
さいごに(まとめ)
陸上競技を撮影する際は、種目ごとの動きの特性を理解してシャッタースピードを設定することが、美しい一枚を得る近道です。



ささっとまとめてみましょう
短距離や跳躍を撮影する際は、選手が一瞬で最高速度に達します。
その一瞬の筋肉の動きやスパイクの蹴り上げまでくっきり残したいなら、1/1600〜1/2000秒の高速シャッターが安心です。
これなら四肢の末端や表情の微細なブレも抑えられます。
一方、長距離は速度が比較的落ち着いており、駆け引きや表情を丁寧に写したい場面が多くあります。
1/1000秒前後を起点にすれば、選手のフォームを美しく保ちつつ背景の臨場感も残しやすくなります。
スピード感を演出したいときには流し撮りが効果的です。
まずは1/125〜1/60秒から練習を始めると、背景に動きをつけながら被写体をしっかり捉えられ、歩留まりも高まります。
さらに、屋内やナイターでは照明のフリッカーが写真に縞を生じることがあります。
撮影前にカメラのフリッカー低減機能をONにしておくことで、露出ムラや色ムラを防ぎ、安定した仕上がりが期待できます。



最後に大切なのは、現場で慌てず「絞り→シャッタースピード固定→ISO調整」の順番を守ることです。



はい、これなら種目ごとの設定を迷わず決められます。



これで陸上競技の撮影は一段と自信を持って挑めますね。



ありがとうございます。次の大会でさっそく試してみます。
参考HP一覧
- Nikon USA – Photographing Sports Indoors and Out
- Canon USA – Getting the Best Shot in Sports Photography
- Canon – フリッカー低減機能に関する公式サポート情報
- Nikon – フリッカー低減機能に関する公式マニュアル
- Tamron – 流し撮りの基本ガイド
- MPB – Athletics Photography 101
- Photo Like Sports – 陸上競技撮影の連写・望遠の基本

