テニスの試合を写真に収めようとすると、サーブの一瞬やラリーの駆け引きは、肉眼で見ても驚くほど速く感じます。
いざシャッターを切っても、選手の動きがブレてしまったり、
背景がごちゃついて被写体が埋もれてしまったりする経験をした方も多いでしょう。
でん子テニスコートに立つ選手たちの息づかいを、
初めてカメラ越しに感じた日のことを
今でもはっきりと思い出します。
澄んだ青空の下、ラケットが弾く乾いた音と、風を切るボールの速さ。
目の前で繰り広げられる一瞬の攻防に胸が高鳴りました。
ところが撮影を終えて画面を覗くと、ボールは見当たらず、ラケットはぶれて二重に写っていたのです。



あの悔しさは忘れられません。。。



最初は誰だってそうでしょうね・・
シャッタースピードだけ上げても
うまくいかないんですよね
かつて筆者も同じ悩みを抱えていました。
初めて全日本選手権を撮影したとき、1/1000秒のシャッタースピードでもボールが線のように伸びてしまい、決定的瞬間を逃した悔しさは今でも鮮明に覚えています。
そこから試行錯誤を重ね、私は何度も会場へ足を運び、
ただ速いシャッターを切るだけでは足りないことを痛感しました。
露出・AF・立ち位置の基本設計を組み立てることで、
ようやく選手の迫力を写真に刻むことができるようになりました。
絞りをどこまで開けるか。
ISO感度をどの範囲に収めるか。
AFがどこまで被写体を追えるか。
一枚の写真を決める要素は想像以上に多く、
ひとつでも欠ければ決定的瞬間は逃げていきます。
試行錯誤を重ね、
やがて露出・AF・立ち位置を意識することで、
選手の表情とボールの勢いを同じフレームに収められるようになりました。
この記事では、そんな過去の失敗から学んだ「テニス撮影の基本設計」を物語のように辿りながら、誰でも現場で再現できるポイントを詳しく紹介します。
特にこれから試合撮影に挑戦したい方が最初に押さえるべき
「動体を止めるための露出設定」
「サーブやラリー局面ごとのAF追従」
「構図と立ち位置の工夫」
などを順を追って解説します。
この記事でわかること
- 動きを止めるために必要なシャッター速度の基準
- サーブ・ラリー・ネット際それぞれに適したAF設定のコツ
- 背景を整理して選手を引き立てる構図と立ち位置の選び方
- 大会現場で守るべきフラッシュ禁止や静粛運用などのマナー
- 望遠レンズや高感度ボディ選びの基本


テニス撮影の基本設計を理解する
テニス撮影は、まず「動体を止める」ための設計がすべての土台になります。
スポーツ写真に共通する基本として、
①シャッタースピードをどの水準に置くかを先に決め、
②そこから絞りとISOを調整するのが定石です。



シャッタースピードを基準に考えるのが出発点です。



なるほど、、
露出全体のバランスが決まるのですね。
それでも明るさが不足する場面では、絞りをf/2.8のように開放寄りにして光を取り込み、最後にISOで整える流れが理想です。
屋内やナイトゲームでは、照明が十分でないためISO感度を上げざるを得ません。
このときはノイズ耐性のある高感度ボディを選び、RAWで撮影して後処理の余地を確保すると仕上がりが安定します。
動体を止めるシャッタースピードの基準
テニスボールは肉眼では見えないほどの速度で飛んでいます。
1/1000秒では球が線のように伸び、決定的瞬間がぼやけてしまうこともあります。



1/1600秒から1/2000秒を基準にするのが安全です。



はい、ブレを防ぐためには、やはり速めの設定が必要なのですね。
そのうえで、あえてボールの変形やラケットのしなりを残したい場合には、1/1000秒前後に落とす工夫も表現の幅を広げます。
フリッカー対策とシャッター方式
LED照明下では、電子シャッター使用時にバンディングと呼ばれる縞模様が写り込むことがあります。
この現象を避けるには、カメラのアンチフリッカー機能をONにするか、メカシャッターを選ぶのが無難です。



電子シャッターは便利ですが、照明環境によっては注意が必要です。



はい、フリッカー対策をきちんと理解しておきたいですね。
最近ではグローバルシャッター搭載機も登場し、こうした問題を根本的に回避できるケースもあります。
ただし、それぞれの機種にはベースISOや露出の特性があるため、事前に確認しておくことが欠かせません。
テニス撮影の基本設計 まとめ表
| 項目 | 推奨設定・数値 | ポイント・注意点 |
|---|---|---|
| シャッタースピード基準 | 1/1600秒を基本、速い局面では1/2000秒以上 | 動体を止めるための最優先項目。スポーツ写真はまずSSを決め、絞りとISOで光量を調整する。 |
| 絞り設定 | f/2.8前後(開放寄り) | 光を多く取り込み、背景をぼかして選手を際立たせる。明るさが不足したらISOで補う。 |
| ISO設定 | 屋外:ISO100〜400、屋内・ナイター:ISO上限6400目安 | ノイズ耐性の高いボディを選び、RAW撮影で後処理の余地を確保する。 |
| 1/1000秒前後の表現 | あえて1/1000秒前後に落とす | ボールの変形やラケットのしなりを表現したい場合に有効。 |
| フリッカー対策 | アンチフリッカー機能ON、またはメカシャッター使用 | LED照明下では電子シャッターでバンディングが出やすいため対策が必要。 |
| グローバルシャッター搭載機 | 機種ごとのベースISOや露出特性を確認 | バンディングを根本的に回避できるが、露出特性が異なるため事前確認が必須。 |
AF追従と局面別の設定
テニスでは、サーブ・ラリー・ネットプレーといった局面ごとに選手の動きの方向やスピードが大きく異なります。
そのため、AF-Cを基本にしながら、局面に応じてAFエリアや追従感度を切り替えることが、決定的瞬間を逃さないための第一歩となります。



AF-Cを軸に状況ごとに調整しておくことが大切です。



なるほど、動き方に合わせてAF設定を変えるのですね。
AF-C と AF-S の簡潔な補足説明
トラッキングAFの補足
トラッキングAFは、被写体を一度捕捉するとフレーム内で動いても自動的に追い続けるオートフォーカス機能です。
通常のAF-Cと似ていますが、選んだ被写体そのものを識別して追尾する点が特徴です。
被写体が左右や奥行き方向に大きく動いても、カメラが自動的にAFポイントを移動させながらピントを維持します。
テニス撮影では、サーブのトスからインパクト、ラリー中の素早い移動など「被写体が予測不能な方向に動く」場面に特に有効です。
選手の顔や体全体を起点に追尾するため、ラケットやネットに一瞬隠れてもフォーカスを保ちやすいのが強みです。
ただし、背景に似た色や形が多い場合や、被写体が極端に小さい場合は誤検出しやすいことがあります。
その際は、フレキシブルスポットなどで初期捕捉の範囲を絞る、またはAF感度を調整して安定性を高めるのが実践的です。
サーブ局面のAF設定
この一連の動きをしっかり捉えるためには、
最初の捕捉を逃さないトラッキングAFが有効です。



Eye AFは顔が大きく写る時に有効ですが、キャップなどで目が隠れると迷うことがあります。



その場合はラケットや腕にAFが引っ張られないよう、トラッキングAFで広めに捕捉しておくのですね。
ラリー局面のAF設定
ラリーでは選手が前後左右へ大きく動き、被写体のサイズ変化も激しくなります。
AFポイント自動切替や追従感度を標準からやや遅めに設定すると、急な遮蔽物(ネットポストやラインパーソン)によるAFの迷いを減らせます。



AFが一瞬抜けても自動で戻ってくるよう、追従感度を少し抑えるのがポイントです。



そうすれば遮るものがあっても安定して追い続けられるのですね。
ラケットの撓みをあえて写したい場合は1/1000〜1/1250秒に緩めても面白い表現になります。
ネット際プレーのAF設定
ボレーやスマッシュでは移動量が大きく、被写界深度も浅くなります。
AFエリアを一段狭め、誤捕捉を減らす設定が効果的です。



ネットにピントを奪われにくくするために、トラッキングAFの範囲を絞るのが安全策です。



はい、近距離での速い動きでも確実に被写体を捉えられそうですね。
AF追従と局面別の設定 比較表
| 局面 | 推奨AF設定 | 推奨シャッタースピード |
|---|---|---|
| サーブ | AF-C+トラッキングAF Eye AFは顔が大きく写る状況で有効 | 1/2000〜1/3200秒 |
| ラリー | AF-C+AFポイント自動切替 追従感度:標準〜やや遅め | 1/1600〜1/2500秒 (ラケットの撓み表現なら1/1000〜1/1250秒) |
| ネット際プレー | AF-C+トラッキングAF(範囲を一段狭める) | 約1/2000秒 |
構図とポジション取り
テニス撮影では、構図と撮影ポジションの選び方が、写真の迫力と選手の存在感を大きく左右します。
光の向き、背景処理、そしてレンズの焦点距離をどのように組み合わせるか――これらの要素を理解するだけで、同じ一瞬を切り取っても写真の完成度が一段と変わります。



構図の差だけで同じプレーも印象が劇的に変わります。



背景を整理するだけで選手が際立つのですね。
視線誘導を意識した構図づくり
被写体を中心に置くだけではなく、観る人の視線をボールの軌道や選手の動きに導くことが重要です。
打球方向に余白を残したり、縦位置でネットを対角線に配置することで、動きのストーリーを表現できます。
テクニック例
・ボールの進行方向に1/3程度の余白を空けて、プレーの流れを感じさせる
・縦位置でネットのラインを斜めに走らせ、プレーに緊張感を加える
・フォロースルーの終わりをフレーム内に残し、スイングの力強さを伝える
高さと距離を変えることで背景をコントロール
低い位置から撮影すれば、背景に空を抜けさせて看板や観客の被りを避けやすくなります。
逆にスタンド席から撮れば、選手の動きとコート全体の戦術的配置を一枚に収められます。



視点を変えるだけで背景の整理が格段に楽になります



たしかに!!
視点の高さを変えるだけでこんなに雰囲気が大きく変わるんですね。
望遠レンズを開放付近で使えば、背景を大きくぼかして選手を際立たせる効果が高まります。
f/2.8前後なら、看板の文字や観客席の雑多な線を自然に溶かし込み、選手への視線を集中させることができますね。
サーブ・ラリーそれぞれの理想的な立ち位置



順光は色とディテールが鮮明になるので、初心者には特におすすめです。



はい、観客席からでも順光側を選べば安定した写真が撮れますね。
プロが実践する背景整理のコツ
・望遠端で背景をぼかし、観客席や広告の強い線を溶かす
・被写体と背景を斜めに重ねることで、奥行き感を強調
・動きを止めるだけでなく、あえて1/60〜1/125秒で流し撮りしてスピード感を演出



背景の線を整理するだけで、選手の存在感がぐっと強くなります。



観る人の視線も自然と選手に集まりますね。
機材選びと現場マナー
テニス撮影では、どんなに構図を工夫しても、機材の性能が足りなければ決定的瞬間を逃してしまいます。
レンズの焦点域や開放値、ボディの高感度性能、連写速度まで、すべてが歩留まりを左右します。
さらに、会場ごとのマナーやルールを守ることも必須なので、気をつけましょう。



まずはレンズ選びから、実際にどんな選択肢があるのか見てみましょう。



どれを選べばいいのか基準が知りたいです。
レンズ選びの具体例



中古市場やレンタルでまず試してから購入を検討するのも一つの方法です。



はい、試し撮りで感覚を掴んでからなら失敗が減りそうですね。
高感度ボディと連写性能
ISO6400までノイズを許容できるボディなら、屋内やナイターでも1/2000秒を維持可能です。
フルサイズセンサー機(例:α系、EOS R3系など)は特に有利で、20コマ/秒以上の連写とRAW100枚以上のバッファを持つ機種なら長いラリーでも取りこぼしません。
バックボタンAFを活用すれば、ピント操作とシャッターを分離でき、追従精度をさらに高められます。
RAW+JPEG同時記録にしておけば、速報用JPEGと後処理用RAWを同時に確保でき、試合後の作業効率も上がります。
撮影マナーと会場ルール
ウィンブルドンやUS Openではフラッシュの使用が明確に禁止されています。
電子シャッターでもLED照明下ではバンディングが出る場合があるため、メカシャッターに切り替える配慮が必要です。
一部の大会では望遠レンズの持込制限(300mm超NGなど)が設けられていることもあります。
事前に主催者の最新ガイドラインを確認しましょう。
観客席での三脚使用は安全上禁止される場合が多いため、一脚を使って他の観客の視界を妨げないよう高さを調整することがマナーです。



選手の集中を乱さず、観客同士も気持ちよく観戦できる環境を守ることが撮影者の責任です。



はい、マナーを守ってこそ本当に良い写真が残せます。
さいごに
テニス撮影を振り返ると、最初に押さえるべきはやはり「動体を止める」ための露出設計でした。
シャッタースピードを1/1600秒以上に設定し、光量が足りなければ絞りをf/2.8付近に開き、ISOで最後に整える。
この順序こそが、どんな局面でもブレない基本となります。



シャッタースピードを基準に露出を組み立てるのが第一歩ですね。



はい、まずはここを外さなければ大きな失敗は避けられそうです。
ここまで紹介した手順や工夫を意識すれば、初めての試合撮影でも決定的瞬間を確実に捉えられるはずです。
次の大会では、ぜひこのガイドを参考に一歩踏み込んだ一枚に挑戦してみてください。
参考HP一覧
















