カメラを買うとき、
人はみんな“本体”しか見ていません。
あの瞬間の顔といったら、まるで恋です。
「連写がすごい」
「手ブレ補正が神」
「このデザインたまらん」
――もう夢中です。
でも、その恋が続くかどうかは、たった数センチのカードにかかっています。
そう、SDカード。
小さいくせに、人生を左右します。
ある日、家電量販店の棚の前で、私は立ち尽くしました。
「同じ128GBなのに、値段が倍違う。なんだこれ」
“安いのでいい”という悪魔の声が耳元でささやきます。
「だって、データ入るんでしょ?」
はい、入りませんでした。
卒園式の動画が、途中で固まったんです。
スローモーションのように動かない我が子。
人生で一番感動する場面が、永久に「読み込み中」です。
泣きました。
子も、親も、カメラも。
あのとき私は思いました。
“なんでもいい”という言葉ほど、人を不幸にする言葉はない。
恋人に「なんでもいい」と言われたときも、夕飯で「なんでもいい」と答えたときも、だいたいろくな結果にならない。
SDカードも、まったく同じです。
この記事は、「本当に“なんでもいい”のかな?」と疑問に思った方のためのものです。
SDカードを、恋愛相談みたいに、ゆっくりわかりやすく解きほぐしていきます。
・なぜ同じ容量で値段が違うのか
・アルファベットの羅列(V30とかUHS-IIとか)は何を意味するのか
・そして、なぜ人はいつも「なんでもいい」と言ってしまうのか
SDカードを通して、人間の愚かさと希望を語ります。()
この記事でわかること:
✅ SDカードの基本構造(世代・バス・スピードクラス)
✅ カメラごとに異なる「必要最低速度」の見極め方
✅ 偽造カードの見分け方と、信頼できる購入ルート
✅ “なんでもいい”を卒業する4つのステップ

SDカードの正体を暴く:アルファベットの森を抜けよう

【 サンディスク 正規品 】
SDカード 256GB SDXC Class10 UHS-I V30
読取最大200MB/s
SanDisk Extreme PRO
SDSDXXD-256G-GHJIN 新パッケージ
何が何やらさっぱり・・・
「なんでもいい」人が最初に迷い込むのが、上の画像にもあるようなアルファベットの森です。
パッケージには謎の暗号。
SD、SDHC、SDXC、SDUC、UHS-I、UHS-II、V30、V90――。
もはやカメラ売り場の棚は、理系の試験会場です。
でも大丈夫。
本質はたった3つ。
世代・バス・スピードクラス。
これさえ分かれば、ほぼ全部の記号は“意味のある呪文”に変わります。
世代:カードにも「年功序列」がある
SDカードには、世代という“身分制度”があります。
・SD(最大2GB)
・SDHC(~32GB)
・SDXC(~2TB)
・SDUC(~128TB)
「HC?XC?どっちでも撮れるっしょ」と思ったら、たいてい撮れません。
しかもSDHCは古いFAT32フォーマットなので、4GBを超える動画を分割します。
つまり運動会を30分撮っても、ファイルが「謎の5個」に割れてます。
編集で泣きます。
バス:データの通り道、あなたの人生と同じ
次に「UHS-I」「UHS-II」という単語。
これはカードの道路の本数です。
UHS-Iは一車線道路。
UHS-IIは追い越し車線あり。
データという車が、二列目の端子を通ってスイスイ流れます。
でも、ここに悲しい現実があります。
カメラ本体がUHS-Iしか対応していないと、
UHS-IIカードを買っても“二列目の車線”が閉鎖中。
結局、片側一車線でノロノロです。
これを知らずに「高いやつ買えば速いでしょ?」と思うと、
お財布だけがフルスピードで減速します。
スピードクラス:地味だけど一番大事
カードの「V30」「V60」「V90」は、
最低でもどのくらいの速度を保てるかの体力テストです。
V30=毎秒30MB
V60=毎秒60MB
V90=毎秒90MB
つまりVの数字は、「どれだけ息切れせずに走り続けられるか」。
動画撮影中に止まるのは、この持久力が足りないからなんです。
目安は簡単。
カメラの最大ビットレート ÷ 8 = 必要なVクラス。
EOS R6 Mark IIなら約340Mbps。
340 ÷ 8=42.5MB/s。
つまりV60が“安全ライン”です。
SDカードを理解するのに、難しい数式は要りません。
必要なのは、
自分のカメラを知ること。
「どのカードを買えばいい?」という問いの前に、
「自分のカメラはどれを求めている?」と聞き返すこと。
それが、“なんでもいい”からの最初の卒業です。
✅ まとめ
・世代=容量とフォーマット
・バス=道路の本数(対応していなければ意味なし)
・Vクラス=動画が止まらないための最低体力
カメラ別・用途別(例):あなたの一枚はどのタイプか
「デジカメ対応」と書いてあっても、“同じSD対応”ではない。
まるで「犬が好き」と言っても、チワワと土佐犬が同じではないように。
ソニー α9 III|“F1レーサー”みたいなカメラ
ソニーのα9 III
このカメラは、もはや人間の反応速度を超えています。
毎秒120枚。
もはや肉眼より速い。
だからこの子にはUHS-II V90か、
もしくはCFexpress Type Aが似合います。
microSDを挿すと、まるでレーシングカーに三輪車のタイヤを履かせるようなもの。
走るには走るけど、コーナーで転がります。
キヤノン EOS R6 Mark II|“万能型の優等生”
このカメラは、撮ってよし、録ってよし。
4K60pの動画も、RAW連写もこなすオールラウンダー。
動画の最大ビットレートは約340Mbps。
340 ÷ 8 = 42.5MB/s。
つまり、V60のカードで十分。
V90を使えば少し早くなるけど、
その差は「靴下を新品に変えた」くらい。
気持ちはいいけど、写真は変わらない。
ニコン Z8|“プロの現場に立つ猛獣”
Z8は正直、もうSDカードの範疇を超えています。
CFexpress Type Bが主戦場。
SDスロットは“サブ”。
たとえるなら、家にあるトースターの裏側のUSBポートくらいの立ち位置。
存在はするけど、そこに頼る人はいない。
microSDは使える? ――それ、飾りです
「microSDでも使えます」とメーカーは言います。
確かに動きます。
でも本音を言うと、“使える”と“使っていい”は違います。
アダプターをかませたmicroSDは、接点が多くなり、熱もこもる。
そして何より、「なぜか途中で止まる率」が上がる。
仕事や行事の本番で止まった瞬間、
あなたの心も止まります。
静止画・動画で分ける“現実ライン”
・フルHDや4K30pくらいまで → V30で十分
・4K60pやHDR撮影 → V60が安心ライン
・8K、ALL-I、RAW動画 → V90かCFexpress
つまり、映像が綺麗になればなるほど、SDカードにも筋トレが必要なんです。
「軽い運動しかしないのに、プロテインを飲む必要はない」――その逆もまた然り。
✅ まとめ
・“カメラの性格”で必要なカードは変わる
・microSDは「使えるけど信じるな」
・ビットレート÷8が“必要速度”を示す魔法の式
壊れないための習慣:信頼性と運用術
カメラのトラブルで一番多いのは、実はカメラじゃありません。
カードです。
「昨日まで動いてたのに」
「フォルダが開かない」
「データが消えた」
――これは、夏の怪談より怖い話です。
でも、理由はたいていシンプル。
人間が“面倒くさい”を選んだからです。
偽造カードは、思っているより多い
世の中には、見た目だけ本物の“偽カード”が想像以上に出回っています。
パッケージもロゴも完璧。
でも中身は別モノ。
いわば、ブランド物の財布を買ったら、中が折り紙だったみたいな話です。
特にオンライン通販では、「異様に安いSDXC」「やたら高評価レビュー」には要注意。
届いたら、まずH2testwやBlackmagic Disk Speed Testなどの無料ソフトで速度をチェックしましょう。
本当に書き込みが速いカードは、だいたい無口です。
大声で“高速!”と書かれているやつは、たいてい遅い。
カメラでフォーマットする。それが儀式
新品カードを買ったら、いきなり撮影に行ってはいけません。
まずはカメラ本体でフォーマット。
「え、パソコンでできるけど?」
――できるけど、それは他人の家のルールで掃除するようなもの。
カメラ自身が作るフォルダ構造やファイル命名が整ってこそ、安定します。
毎回フォーマットする人ほど、データが壊れにくい。
毎回“なんとなく削除”で済ませる人ほど、後悔しやすい。
フォーマットは宗教ではなく、予防接種です。
予備カードを持つ。それだけでプロ
撮影現場でトラブルを起こす人の共通点、それは“カードが1枚しかない”ことです。
どんなにいいカメラを使っても、カードが一枚なら人生は綱渡りです。
理想は、同じ性能のカードを2枚そろえて、同時記録かバックアップ運用に。
しかも、どちらかが遅いカードだと、全体の速度は遅い方に引っ張られます。
人生も同じです。付き合う人でペースが変わります。
SDカードを「倉庫」にしない
撮影が終わったら、データをPCやクラウドに移して、カードを空にしましょう。
「一応残しておこう」と思ってカードに詰め込むと、次に必ず“地獄の上書き”。
SDカードは倉庫ではなく、通勤電車です。
毎日人が乗り降りする場所に、思い出を置きっぱなしにしてはいけません。
✅ まとめ
・偽造カードは“安さよりも怪しさ”で見抜く
・フォーマットはカメラで行い、撮影前の儀式にする
・同一性能のカードを2枚そろえて運用
・カードを外部ストレージ代わりに使わない
まとめ:「なんでもいい」から抜け出す4手順
SDカード選びって、つい「難しそうだし、動けばいいや」で終わらせがちです。
でも、それは恋愛で言うところの「優しければ誰でもいい」と同じです。
言った瞬間に、もう破局の足音が聞こえています。
① カメラの公式対応と最大ビットレートを調べる
最初のステップは“相手を知ること”。
自分のカメラがどのカードを求めているかを、取扱説明書かメーカーサイトで確認します。
恋と同じで、まず相手のスペックを知りましょう。
「何を求めているか」を無視すると、たいていフリーズします。
② 「ビットレート÷8」で必要なVクラスを出す
ビットレートはカメラがどれだけ情報を吐き出すかの数字。
それを8で割ると、必要な“毎秒書き込み速度”が出ます。
340Mbps ÷ 8 = 42.5MB/s → V60
この式を覚えた瞬間、あなたはもう“なんでもいい人”ではありません。
一瞬でカードを見抜く、撮影者の眼が手に入ります。
③ UHS-II対応ならカードもUHS-IIに
カメラがUHS-II対応なら、迷わずUHS-IIを。
対応していないなら、無理して高級カードを買わない。
つまり、「走る道が一車線なのに、フェラーリを買わない」。
見栄よりも現実。
その判断力が、安定した撮影を生みます。
④ 信頼できる販売先で買い、届いたらテスト&フォーマット
最後のステップは“入口と儀式”。
販売元は正規代理店や大手量販サイトを選び、
届いたらまず速度テスト。
そして、カメラ本体でフォーマット。
これで、あなたのSDカードは「ただの記録メディア」から「信頼できる相棒」に変わります。
“なんでもいい”を卒業するということ
SDカードを選ぶという行為は、
「未来の自分の記録を、どれだけ大切に扱うか」という宣言でもあります。
安いカードを選んでもいい。
ただ、“理由がある安さ”を選ぶこと。
大切なのは、自分で選んだという実感です。
✅ まとめのまとめ
・カメラの公式情報を確認する
・ビットレート÷8で必要Vクラスを出す
・UHS-II対応ならカードもUHS-II
・信頼できる販売先+初期テスト+カメラでフォーマット
これで、あなたはもう「なんでもいい」とは言わない。
むしろ言えない。
だって、知ってしまったから。
“撮れてる”と“残ってる”のあいだにある、あの小さなカードの意味を。
本記事の参照情報(出典整理)URL一覧
- SD Association|SDカード規格概要(バススピード、UHS、SD Express)
https://www.sdcard.org/developers/sd-standard-overview/bus-speed-default-speed-uhs-sd-express/ - SD Association|スピードクラス(C・U・V・Eクラスの定義)
https://www.sdcard.org/developers/sd-standard-overview/speed-class/ - SD-3C LLC|偽造SDカード対策に関する公式アナウンス
https://www.sdcard.org/press/thoughtleadership/keeping-it-real-how-sd-3c-fights-counterfeit-sd-memory-cards/ - SanDisk(Western Digital)公式ブログ|SD Expressの概要と位置づけ(2025年)
https://www.sandisk.com/company/newsroom/blogs/2025/sd-cards-next-chapter-begins-with-sd-express - Tom’s Hardware|SD Express 8.0世代カード(実測1.6GB/s)の技術報道
https://www.tomshardware.com/pc-components/storage/first-sd-express-8-0-memory-card-from-adata-hits-1.6-gb-s-read-speeds-512gb-capacity-and-u3-v30-compliant - Microsoft|exFATライセンスとSDXC/SDUCでの標準フォーマット関係
https://www.microsoft.com/en-us/legal/intellectualproperty/tech-licensing/programs - Canon|EOS R5 Mark II・R6 Mark II取扱説明書(ファイルシステムと動画分割仕様)
https://cam.start.canon/en/C017/manual/html/UG-07_Set-up_0080.html - Sony|α9 IIIヘルプガイド:使用できるメモリーカード(CFexpress Type A / SD UHS-I/II)
https://helpguide.sony.net/ilc/2380/v1/ja/contents/0002H_usable_memory_card.html - Sony|α9 III Help Guide(英語版)
https://helpguide.sony.net/ilc/2380/v1/en/contents/0002H_usable_memory_card.html - Nikon|Z8 推奨CFexpress Type B対応カードリスト(公式FAQ)
https://nij.nikon.com/support/faq/products/article?articleNo=000059455 - Nikon|Z8 対応メモリーカード(海外サポート)
https://www.nikonimgsupport.com/eu/BV_article?articleNo=000044865&lang=en_GB - Alik Griffin|EOS R6 Mark II 実測に基づくSDカード性能検証記事
https://alikgriffin.com/best-memory-cards-canon-r6-mark-ii/ - Android Police|偽造SDカードの検証と見分け方
https://www.androidpolice.com/how-to-spot-and-test-for-fake-memory-cards/ - DPReview|2025年版 “どのSDカードが必要か” 基礎解説
https://www.dpreview.com/learn/2115218022/what-kind-of-sd-card-camera-vintage-point-and-shoots - PNY|microSD Express発表リリース(2025年)
https://www.pny.com/company/press-center/pny-press-releases/pny-reveals-microsd-express-microsd-flash-memory-card - havecamerawilltravel.com|高速SDカードの比較とUHS-II性能レビュー
https://havecamerawilltravel.com/fastest-sd-cards/ - TechGearLab|SDカード実効速度比較と信頼性評価(2025年更新)
https://www.techgearlab.com/topics/electronics/best-memory-card




