旅先で写真を撮るという行為は、いつも少し思い通りにはいきません。
風が強かったり、
髪が言うことを聞かなかったり、
誰かの表情があとほんの少しだけ届かなかったりします。
それでも、私たちはカメラを構えます。
「あとでちゃんと思い出せるように」、ただそれだけのために。
その日も同じでした。
目的地に着いて、カメラを手にしました。
レンズはきれいで、バッテリーも満タンで、心もそこそこ整っていました。
そこで、画面に静かに文字が現れました。
「カードが入っていません。」
その瞬間、人は急に探検家になります。
バッグの中を探り、ポケットを探り、自分の記憶を探ります。
そして、ゆっくりと気づいていきます。
SDカードは、家にあります。
SDカードというものは小さいのに、とても大事です。
大事なものほど小さくて、時々、見失ってしまうのかもしれません。
そのとき、自然とこう思います。
「こんなことなら、SDカードがいらないカメラがあればよかったのに。」
これは、少しもわがままではありません。
目の前に残したい景色が、確かにそこにあったのですから。
そして調べていくと、世界は少し複雑で、けれど意外とやさしいことが分かります。
たしかに多くのカメラはSDカードがないと“保存”ができません。
しかし、例外は存在します。
“内蔵メモリに保存できるカメラ”
“そもそもSDカードを使わない設計のカメラ”
静かに、けれど確かに、そうした機種は今も現役で存在しています。
この記事では、そのような「カードがなくても撮れるカメラ」について整理していきます。
- SDカードがなくても“保存できる”現行モデルはどれか
- 「シャッターは切れるのに保存されない」現象はなぜ起こるのか
- 次の旅行で、同じ静かな絶望を避けるために何を確認すべきか
写真を撮る人にとっては、小さな話に見えて、実はとても大切な話です。


内蔵メモリがあれば“カードなしでも保存できる”ことがある
「カードが入っていません」と表示されたとき、
そこにあるのは、ただの事実です。
保存先がなければ、写真はどこにも行けません。
しかし、例外は存在します。
カメラ自体に“保存場所”を持っているものです。
内蔵メモリを備えたカメラは、カードがなくても一時的に記録ができます。
まるで旅先で「今日はここに泊まっていけばいいよ」と言ってくれる、静かな部屋のような存在です。
業務向けコンデジ:RICOH G900 II
工事現場や屋外調査で使用されることを前提に設計されたカメラです。
扱いやすさよりも、「確実に記録が残ること」 が優先されています。
このシリーズは、約6.5GBほどの内蔵メモリを備えています。
SDカードが満杯になったときも、カードを入れ忘れたときにも、
“とりあえず残せる” という点が大きな安心につながります。
一般旅行向けの軽やかなカメラではありません。
しかし、写真を「証拠」や「記録」として残す必要がある方にとっては、心強い相棒です。
カードスロットそのものを省いたモデル:SIGMA BF
こちらは少し異質です。
「カードがなくても撮れる」ではなく、
**「そもそもカードを使わない」**
という思想で作られています。
カメラ内部に大容量ストレージ(230GB)を積み、
・JPEG
・RAW
・動画
を、まとめて保存していきます。
保存したデータは、USB-Cで外に取り出す形です。
写真をその場で配る、というよりも、
撮ったものを“静かに持ち帰る”カメラと言えるかもしれません。
現地よりも「帰ってから向き合う時間」を大切にしたい方には、相性が良いと感じられるかもしれません。
ハイブリッドインスタント:FUJIFILM instax WIDE Evo
こちらは「記録」と「楽しみ」のあいだに立つカメラです。
写真は内蔵メモリ(約45枚)に残すことができ、必要であればmicroSDを追加できます。
撮ったものをその場で印刷する前に、一旦“選ぶ”時間を与えてくれるのです。
旅先で誰かと過ごしているとき、
「この写真、渡したいな」と思う瞬間は、案外多いものです。
そういうときに、静かに力を発揮します。
小型アクションカム:Insta360 GO 3S
このカメラは、最初からカード管理を前提としていません。
ポケットから取り出して、ただ撮る。
記録はすべて内蔵メモリに保存されます。
「忘れる」という行為そのものを設計から取り除いたようなカメラです。
旅行先で機材の準備を最小限にしたい方には、非常に大きな利点があります。
シャッターは切れるのに“保存されない”落とし穴
旅先で「撮れた」と思った写真が、あとからどこにも見つからない。
これは、カメラの故障ではなく、設定によって起こる現象です。
多くの一眼カメラや上位モデルには、
「カードなしレリーズ」 という設定項目があります。
これは、開発や点検の段階で「とりあえず動くかどうか」を確認するために使われるものです。
そのため、この設定を “許可” にしたまま旅に出ると、
シャッターは静かに切れます。
音も、手応えも、いつも通りです。
しかし、写真はどこにも残りません。
見た目は“撮れているのに”、
中身は“存在しない”という、非常に静かなすれ違いです。
なぜ保存されないのか
カメラは、撮影した画像を一時的にメモリへ置きますが、
保存先が決まっていない場合、その画像は定位置を持てません。
「カードなしレリーズ」は、
「保存しなくていいので、とりあえず動かしてください」
という指示に近いものです。
つまり、“記録する意思”が設定で無効化されている状態です。
旅行前に確認すべきこと
操作は難しくありません。
設定メニューの中にある以下の項目を “禁止” に戻すだけです。
- 「カードがないときはシャッターを切らない」
- 「保存できる状態でなければ撮影はさせない」
この2つが揃えば、旅先で写真が消えることは、ほとんど起こりません。
これは「技術の話」ではなく「記憶の話」です
写真はただのデータと思われがちですが、
実際には、それを見返すときにやってくる 空気や時間ごとの情景 を呼び戻します。
ですから、保存されなかった写真は、
「撮れなかった」という事実以上に、
“思い出が存在しなかったことになる” という意味を持ちます。
その喪失を防ぐために、出発前の1分の確認は、
本当に、大切な行為です。
“カードなしで撮れる”のは、ごく一部です
ここまで見てきたように、
内蔵メモリで保存できるカメラは例外的な存在です。
多くのデジタルカメラは、
「SDカードに記録することを前提にした設計」 になっています。
その理由は単純で、
写真や動画は「あとで残すこと」が目的だからです。
旅、行事、家族、記録、証跡。
残したいものは、消えてはいけません。
だから大多数のカメラは、
- 記録の量に応じてカードを選べる
- カードを交換することで、撮り続けられる
- データの保存・移動が自由にできる
といった “記録の自由と保証” を優先しています。
つまり、
| 保存形態 | 該当するカメラの主流 | 内蔵メモリ量 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 内蔵メモリに保存 | 少数の特殊設計モデル | 小〜中 | 「とりあえず残す」「すぐ渡す」 |
| SDカードに保存 | ほとんどの現行カメラ | 自由に拡張可能 | 「確実に残す」「長く残す」 |
どちらが優れているかではなく、
役割が異なっています。
この記事で大切なのは、
“自分のカメラはどちら側なのか”
これを旅に出る前に理解しておくこと。
それだけです。
子どもの行事で“撮り逃したくない”方へ
写真を「確実に残す」ことを考えると、
どんなカメラを選ぶかは、とても大切になります。
運動会、発表会、発育記録。
どれも「その日、その瞬間」だけのものです。
もし、これから初めてカメラを選ばれる場合は、
選ぶ順序を少し知っておくだけで、失敗はぐっと減ります。
こちらで、必要な考え方を整理しています。
→ 2025年版|子供の行事に初カメラデビュー!失敗しないミラーレス一眼カメラ選び6ステップ

SDカード選びに迷っている方へ
カメラ本体が決まっても、
SDカードは「なんでもいい」では、うまくいかないことがあります。
見た目は同じでも、
書き込み速度や規格が異なると、撮影が途中で止まることがあります。
とくに、連写や動画を撮るときは、
カードの性能差が、そのまま写真を残せるかどうかを決めます。
こちらの記事では、なぜ「なんでもいい」が危険なのかを、
ゆっくりとわかるように整理しています。
→ デジカメ用SDカードで「なんでもいい」はおすすめしない理由!使えないこともある?

さいごに
写真は、一度きりの時間をそっと留めておくためのものです。
「カードが入っていません」と告げられた瞬間、
そこには撮り逃した悔しさだけでなく、
その場にいた自分の気持ちごと取りこぼしてしまったような感覚が残ります。
だからこそ、出発の前にほんの少しだけ、
「内蔵メモリがあるか」
「カードなしレリーズが許可になっていないか」
その二つを確認しておくことは、思っているよりも大切です。
そして、もしこれから初めてカメラを選ぶのであれば、
どんな場面で、誰を、どんな気持ちで撮りたいのかを考えることが、
失敗しないいちばんの近道になります。
感情は記録できませんが、
その場にいた「自分」を思い出させてくれる写真は存在します。
そのひとときを、どうか大切にできますように。
本記事の参照情報(出典整理)URL一覧
RICOH G900 II / G900SE II(内蔵メモリ搭載)
https://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/g900-2/
SIGMA BF(内蔵ストレージ運用モデル)
https://www.sigma-global.com/jp/
FUJIFILM instax WIDE Evo(ハイブリッドインスタント)
https://instax.jp/wide-evo/
Insta360 GO 3S(内蔵ストレージタイプ)
https://www.insta360.com/jp/product/insta360-go3s
Canon|カードなしレリーズ設定(カード未挿入時の動作)
https://cam.start.canon/ja/
Nikon|Slot Empty Release Lock(カード未挿入時のシャッター設定)
https://onlinemanual.nikonimglib.com/
Sony ZV-1F(Vlog向け:SDカード使用前提)
https://www.sony.jp/vlogcam/products/ZV-1F/
本記事は、公開時点の公式情報・取扱説明書・製品仕様をもとに内容を整理しておりますが、
カメラや記録メディアの仕様は、アップデートやモデル変更により変わる場合があります。また、撮影環境や機材の状態、設定状況によっては、
本記事の記載どおりの結果とならない可能性があります。実際のご使用にあたっては、
必ずお手元のカメラの取扱説明書・メーカー公式ページ・最新の製品情報をご確認ください。本記事の内容は、機材選びや設定の判断を補助するためのものであり、最終的な運用判断は、ご自身のご状況に合わせてご判断くださいますようお願いいたします。




