ラグビーを初めて撮った日のことを、いまでも鮮明に覚えています。
カメラを構えたものの、選手が一斉に動き回ってピントは迷いっぱなし。
試合が終わって写真を確認したら、ただの人の塊のようなカットばかりで「これじゃ誰が何をしているか分からないな」と思わず頭を抱えました。

最初は誰でもそうなりますよ。ラグビーは人が多いし、ボールの動きも予想できませんからね。



ですよね…。私なんてピントが全部審判さんに合ってしまって、びっくりしました。
何度も現場に通ううちに、私も大きな気づきを得ました。
決定的な一枚には、必ず「接触の前」と「接触の後」の息づかいが写っていたのです。



そこが一番ドラマチックなんです。タックルの一歩前とか、ラックから球が出る瞬間とか。



なるほど…そのタイミングを狙えば、写真が一気に生きてくるんですね。
決定的な瞬間を残すには、
「置きピンで待つ」と「AF-Cで追う」
——この二つの切り替えが欠かせません。
この二刀流の判断こそ、ラグビー撮影を成功に導く鍵だと、失敗を重ねた末にようやく実感しました。
この記事では、そんな経験を踏まえてラグビー撮影のコツをまとめてみました。皆様のラグビー観戦のお役に立てれば幸いです。
この記事でわかること
・ラグビー撮影で必須となるシャッタースピードと露出の基準
・置きピンが効果的に使える場面と具体的な狙い方
・AF-C+高連写が真価を発揮する展開シーン
・撮影位置と構図の工夫で「塊写真」を防ぐ方法
・おすすめレンズと現場での安定化テクニック


ラグビー撮影の基本設計:シャッタースピードと露出
シャッタースピードはラグビー撮影の生命線
ラグビー撮影で最初に押さえるべきは、被写体ブレを確実に止めることです。
1/1000秒以上を基準に、タックルやラインブレイクの爆発的な動きを止めたい場面では1/1600秒から1/3200秒まで引き上げると安心です。



ここを甘くすると、どんなに構図が良くても一瞬で写真が台無しになりますね。



確かに、顔やボールがブレたら決定的瞬間の価値が下がりますものね。
被写体ブレで失った情報は後から取り戻せません。
ISOをためらわず上げてでも、シャッタースピードを守る発想が結果的に一番安全です。
昼間・ナイターで異なる露出戦略
昼間の快晴では1/1000〜1/1600秒を基準にISOは低めで十分対応できます。
光量が安定しているため、低ISOでも被写体ブレを防げます。
一方、ナイターや厚い曇天では1/640〜1/800秒でもタックル直後の決定的瞬間を捉えられますが、顔が流れやすくなります。
ここではISOを積極的に上げることが重要です。



暗い試合ではISOを上げるのに躊躇しがちですが、ブレよりノイズの方が後処理で対処しやすいですね。



そうですね。ノイズは現像で整えられても、ブレは絶対に戻せませんから。
光が安定するナイターや厚い曇天ではマニュアル露出が有効です。
白ジャージや白帯による露出の暴れを防ぎ、肌のハイライトも飛びにくくなります。
晴天時の測光とISO管理
晴れの日に雲が流れて光が頻繁に変わる場合は、シャッタースピード優先+AUTO ISOが便利です。
ISOの上限を決めておけば、急な光量変化にも対応でき、決定的瞬間を逃しません。
黒や濃色ジャージと白ジャージが混在するラグビーでは、露出計が揺れやすいものです。
ヒストグラムとハイライト警告をこまめに確認し、肌や白帯の飛びを抑えることが安全策になります。
さらに、強い逆光下ではハイライト優先モードを活用し、白帯の飛びを抑えつつ選手の輪郭をしっかり残す工夫も欠かせません。
実戦で役立つ細かな工夫
・連写を多用する前に、まず露出をしっかり固定しておく。
・観客席や広告看板が背景に入る場合は、ややアンダー気味に設定して後から持ち上げる方が被写体が際立つ。
・風や天候の急変に備え、設定変更を素早くできるようカスタムボタンを活用する。
こうした小さな積み重ねが、接触の迫力を逃さない写真を生み出します。
まとめ



数値や場面ごとの設定目安を一目で把握できるよう整理しました。
項目 | 推奨設定・ポイント | 補足・注意点 |
---|---|---|
基本シャッタースピード | 1/1000秒以上 | タックルやラインブレイクは1/1600〜1/3200秒が理想。被写体ブレを最優先で防ぐ。 |
ISO設定 | 高めでも可(上限は機種の許容範囲内) | ノイズは後処理で軽減できるが、ブレは修正不可。シャッタースピード死守を優先。 |
昼間の露出 | SS 1/1000〜1/1600秒/低ISO | 快晴時は低ISOで十分。光量が安定しているためノイズを抑えつつ高速SS確保。 |
ナイター・厚曇り | SS 1/640〜1/800秒/ISOを積極的に上げる | 顔の流れを防ぐためISOを攻める。マニュアル露出が安定。 |
測光モード | ナイターや厚曇り=マニュアル露出 | 白ジャージ・白帯による露出の暴れを抑制。 |
晴天で光量変化が多い場合 | SS優先+AUTO ISO(上限設定) | 雲で光が変わる状況でも決定的瞬間を逃さない。 |
逆光対策 | ハイライト優先モード | 白帯の飛びを防ぎつつ選手の輪郭を残す。 |
実戦テクニック | ・カスタムボタンで素早く設定変更 ・背景がごちゃつく場合は少しアンダーに | 観客席や広告看板が入るときは被写体を浮かせやすくなる。 |
接触前後を切り取る:置きピンと連写の役割分担
接触前後が写真の物語を決める
ラグビーの試合で最も迫力が宿るのは、選手同士がぶつかるその一歩前と一歩後です。
ボールキャリアがタックルを受ける直前の踏み込みや、ラックから球が弾き出された直後の緊張。
これらはほんの一瞬で過ぎ去りますが、写真として残れば試合のドラマを一枚で語る力を持っています。



この瞬間を撮るには、待つか追うかの判断が命ですね。



その場面によって最適な方法が変わるんですね。
置きピンが生きるシーン
スクラム直後やゴール前5mのピック&ゴーなど、動き出す位置がほぼ決まっている局面では置きピンが有効です。
あらかじめプレーが集中する“帯”にピントを固定しておき、被写体がその範囲に入った瞬間に短い高連写で「前→衝突→倒れ込み」を刻みます。
・AFで一度合わせた後、MFに切り替えて固定する
・被写界深度を浅くしすぎずF3.2〜F4程度を確保する
・自分の前後の揺れでズレやすいので肘を固定して身体を安定させる



長時間の半押し保持は破綻しやすいので、MF固定が王道です。



確かに、焦っていると半押しのままズレてしまいますものね。
連写とAF-Cが強い場面
ラインブレイクやキックカウンターのように、選手がどこへ抜けるか分からない展開ではAF-Cと高連写の組み合わせが有効です。
AF-Cとトラッキング機能を併用し、追従感度を中庸(3前後)に設定すれば、選手が人混みをすり抜けても粘り強くピントを維持できます。
・一瞬の遮蔽にも耐えられるようロックオン時間をやや長めに設定
・走り出しを逃さないようフレキシブルスポットや3Dトラッキングを活用



ここでは置きピンよりもAF-Cで粘る方が歩留まりが高いですね。



選手が縦横無尽に走る場面ではAF-C一択ですね。
ハイブリッド運用のコツ
ゴール前の多段ピック&ゴーなど、最初の数回を観察して“帯”を見極めたあと置きピンに切り替える「観察→置きピン投入」の流れが有効です。
また、カウンターで選手が一気に横切る場面では、まず置きピンで初動を狙い、抜けたらAF-Cで引き継ぐ“二刀流”も有効です。
接触前後を確実に切り取るためには、置きピンと連写を場面ごとに柔軟に切り替える判断力が何よりも重要ですね。
撮影ポジションと構図の工夫
立ち位置で迫力を決める
ラグビーの試合を撮るとき、どこに立つかで写真の印象は驚くほど変わります。
タッチライン沿いは動きが横方向に流れるので、選手のスピード感やステップをダイナミックに収めやすいポイントです。
逆にインゴール背後は接触直前と直後の表情が真正面から捉えられ、迫力と緊張感を同時に伝えられます。



ゴールポストの後ろから撮ると、タックルの瞬間が真正面に飛び込んできますよ。



あの迫力は一度体験すると病みつきになりますね。
試合中に移動できる場合は、前半後半で立ち位置を変え、光の向きや攻撃方向に合わせて撮ると画に変化が出ます。
観客席からの俯瞰撮影で流れを捉える
許可が必要な場合がありますが、観客席の上段から俯瞰するとフォーメーションの変化を一枚で表現できます。
密集の中でも誰がボールを持っているか、攻守がどちらに傾いているかが視覚的に分かり、試合全体を物語る写真になります。
密集を「塊」で終わらせないための視点
密集シーンは人の塊に見えがちですが、外縁部にこそ写真の物語があります。
例えば、タックル直前の一歩や、スクラムから球が弾き出される瞬間。
倒れ込み後に伸びる腕や審判のシグナルも、動きの方向や緊張感を伝える重要な要素です。



外側の動きを切り取るだけで、ただの集団写真が一気に試合の一場面に変わりますね。



プレーの意図まで見えてくるから、見返しても飽きませんよね。
背景整理と光の使い方
観客席や広告看板は視線を散らす原因になります。
角度を少し変えてスタンドの上段や空を背景にすれば、被写体が際立ちます。
夕方の逆光を活かして選手をシルエット気味に捉えると、光の縁取りが筋肉の動きを強調します。
その際はハイライト警告を確認し、白帯や肌の飛びを抑える設定が必須です。
また、ナイター照明の下では色かぶりやフリッカーが起きやすいので、フリッカー低減機能をオンにして連写の明暗差を抑えると後処理が格段に楽になります。
ポイントまとめ
・タッチラインはスピード感、インゴール背後は迫力を演出。
・観客席上段から俯瞰すると試合の戦術と流れを一枚で表現可能。
・密集は外縁部を狙い、腕や足の動き、審判の合図で物語を語る。
・背景を整理し、逆光やナイター照明はフリッカー低減とハイライト警告で対応。
これらを意識することで、単なる試合記録から「試合の空気を伝える一枚」へと仕上がります。
レンズ選びと現場での実践ポイント
レンズ選びが決定的瞬間を左右する
ラグビーの試合では、レンズの選択がそのまま写真の質に直結します。
70-200mm F2.8はゴール前から22m帯までの置きピン主体の場面で威力を発揮します。
近距離の接触プレーを背景ごと切り取る際に、被写体を浮かび上がらせるボケ味と取り回しの良さが両立します。
100-400mmや200-500mmクラスはオープン展開やキックカウンターなど、選手が大きくフィールドを横断する場面に対応。
「待ちから追い」までカバーできる柔軟性があり、急なプレーの変化にも対応しやすいのが特徴です。



ゴール前のピック&ゴーは70-200mmで十分ですね。



確かに。広すぎず、選手の表情までしっかり拾えます。
大口径望遠のメリットと注意点
400mm F2.8クラスの大口径望遠はナイトゲームや被写体分離を最優先にしたい場面で理想的です。
しかし重量があり、長時間の手持ち撮影では疲労との戦いになります。
モノポッドを併用し、身体の動きを最小限に抑えることで、シャッターチャンスを逃さず高い歩留まりを維持できます。



モノポッドは風で揺れることがありますから、芝にしっかり押し付けて固定するのがコツです。



なるほど、足元を固めるだけで安定感が全然違いますね。
置きピンを安定させるためのテクニック
置きピンを実戦で活かすには、距離帯ごとの目盛りをあらかじめ覚えておくことが重要です。
試合前にゴール前5mやタッチ際22mなど、自分が狙いたい「帯」を3つほど決め、レンズ側の距離窓やMFアシストを使って素早く呼び戻せるように準備します。
さらに、被写界深度をF3.2〜4で確保しつつ、深めたい場合はF5.6まで絞ると、選手の動きが多少ぶれても決定的瞬間をきれいに残せます。
現場での小さな工夫
・長時間の試合では肩や肘の負担が大きいので、レンズサポートを活用して姿勢を安定させる。
・雨天や泥が多いグラウンドではレインカバーを用意し、機材を守りつつ素早く撮影できるようにする。
・撮影ポジションを変える際は、審判や主催者の指示を必ず確認し、安全と規約を優先する。
レンズ選びと事前準備を丁寧に整えることで、置きピンと連写の二刀流をより確実に実戦へ落とし込むことができます。
さいごに
何度も失敗を繰り返して気づいたのは、ラグビー撮影の本質が「接触前後」にあるということでした。
タックルに入る直前の一歩、ボールが弾き出された直後の視線。
その一瞬を確実に切り取るために、置きピンと連写を状況ごとに使い分ける——これこそが撮影を成功に導く最重要の技術だと実感しています。



最初は難しく感じても、帯を読む感覚が身につくと一気に楽しくなりますよ。



これからはもっといい写真が撮れるよう頑張ります!
光や構図を整え、レンズの特性を理解し、現場で素早く判断する。
その積み重ねが、単なる試合記録ではなく「物語を語る一枚」へと昇華させます。
ラグビー撮影は、一度その迫力を捉えられるようになると二度と手放せない魅力があります。
これから挑戦する方が、私と同じ回り道をせずに、最初の一枚から試合の熱気をそのまま切り取れることを願っています。






参考HP:マップカメラ、カメラのキタムラ、フジヤカメラ、価格.com 、 J-カメラ、カメラファン、aucfan
※大会や主催者ごとに規約が異なるため、撮影前に最新の公式文書を必ず確認してください